ランチェスターの法則とは、英国人ランチェスター( Frederick William Lanchester 1868〜1946 )が第一次大戦における飛行機の損害状況を調べて得た法則です。一言で言ってしまえば、「武器の性能が同じであれば、必ず兵力数の多い方が勝つ」ということになります。商品、サービスの差別化がむずかしくなり、すべてが相対価値として比較される現代では、企業活動にも多くが当てはまり、勝つための論理として活用されています。一騎打ちの法則とも呼ばれる第1法則と集中効果の法則と呼ばれる第2法則があり、前者からは弱者の戦略、後者からは強者の戦略が導き出せます。
ランチェスターの「第一の法則」というのは、俗に「一騎打ちの法則」と呼ばれています。
かつてのGMとフォードやトヨタと日産の販売競争がその例で、2社で75%以上のシェアーを押さえてしまうという一大寡占状態の場合、一位と二位の集中競争に占められ、一騎打ちの法則に支配されてしまいます。
では、この第一の法則とは、どういうものなのかというと、古代の戦闘を思い描いてください。弓とか矢とか盾といった武器を使った戦いです。これが「一騎打ちの法則」というもので、一人が一人を狙い撃ちする戦いです。
第一の法則を式に表すとMo−M=E(No−N)というものです。Moは味方の初期兵力数、Mは味方の残存兵力数、Noは敵の初期兵力数、Nは敵の残存兵力数、そしてEは交換比と呼ばれるもので武器の性能の割合比です。
では。E武器の性能が同じであると仮定すると、上記の式より初期兵力数が少ないほうは全滅するという単純なものです。
この第一の法則を最も多用したのは、豊臣秀吉です。小牧の戦いで家康・織田信雄の連合軍と戦った際、相手の兵力数のほうが多かったので、さっさと和睦し、兵力を蓄えることに専念しました。また、小田原攻めでは4万の小田原勢に対し30万という圧倒的な兵力で城を囲みました。秀吉は、味方の兵力数と比較して、敵が一兵でも多い時には、絶対に戦いをしないという鉄則を守ったおかげで、連戦連勝でした。なお、織田信長は、独創的な戦略に長け、奇策やアイデアの持ち主でしたが、今川義元という圧倒的な兵力の上洛の際、桶狭間という場所で兵力を分散させた今川義元の兵力情報を入手し局地戦を行ったのは、一見、弱者の法則のようであり、しかし、信長の場合、法則が当てはまるのか。その後の長篠の戦では、兵力数では負けていたものの、その当時の武器の性能比(騎馬と鉄砲3段撃ち)を知っていた織田信長の勝利に終わりました。これは第二の法則といえるのか。織田信長がとった戦略に法則を当てはめるというのは、難がある感がします・・・。ただ、楽市楽座(経済の自由化)比叡山焼き討ち(宗教改革)キリシタンの利用(世界戦略)堺の占拠(火薬の占有)など、すごい武将です・・・。
● ちょっと コーヒータイム
合戦の 「 陣形 」
三国志で有名な諸葛孔明には「八陣の法(八卦の法)」というものがあったらしいのですが、武田家にも『武田八陣形』と呼ばれるものがありました。川中島で、車掛の陣で臨んだ上杉謙信に対し、武田信玄は鶴翼の陣で対陣し・・・
ランチェスターの第二の法則とは、どういうものなのでしょうか。
いまA軍が3人、B軍が2人という戦いをしていると仮定します。A軍もB軍も機関銃を使い、同じ確率があるとします。
このような戦闘になった場合、どのような変化が起きるでしょうか。第一の法則とは、明らかに違います。
A軍は2人から1/3づつの攻撃を受け、B軍は3人から1/2づつの攻撃を受けます。即ちA軍は2/3の損害を受け、B軍は3/2の損害を受けます。損害比は4:9になります。
もうひとつ、A軍は16人、B軍は4人である。ただ武器はA軍が小銃であるのに対しB軍は16倍の性能がある小銃を持っているとすると、B軍が全滅するとき、A軍の残存数は何人になるでしょうか。答えはA軍も全滅します。これを式にすると「戦闘力=武器効率×(兵力数の2乗)となります。武器効率が同じだと、先述の3対2の場合、兵力数の2乗の差になるので、9:4になります。
このことから第二の法則を展開すると物量や商品力の大きさが重要になってきます。
つまり寡占状態の場合は第一の法則に支配されますが、群雄割拠のように分散していると第二の法則に支配され、そして占拠率が高いほうが常に有利に立ちます。そのため、低いほうは、企業合同(合併)の必要性が生まれてきます。
このランチェスターの法則の「弱者の戦略」と「強者の戦略」に対し、有名な「イノベーションのジレンマ」があります。
顧客の意見に熱心に耳を傾け、新技術への投資を積極的に行い、常に高品質の製品やサービスを提供し、優良な経営を行なっている業界トップの優良企業が、破壊的イノベーションを前にしてトップの座を受け渡してしまうのは何故かという謎を、ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるクレイトン・クリステンセンが見事に解明しました。
アメリカでベストセラーになったビジネス書、『イノベーションのジレンマ』(翔泳社刊)。
この本で著者は、優良な経営を行なう優良な企業が、そのマネジメントのクオリティの高さゆえにジレンマに陥るという逆説について論じています。
この本で扱われている「破壊的イノベーション」とは、既存の技術よりはパフォーマンスにおいて低く、既存の顧客要求も満たせない、だが、既存の技術とは明らかに違う特徴をもった新技術が、既存の大規模な市場では相手にされず、それまで存在しなかった顧客ニーズ、新市場を切り開くような一連の変化を示しています。事例として紹介されるジレンマに陥った優良企業は、ほぼ共通して、この新技術については、いち早く知っており、商品化を検討するため、顧客の意見も聞いたり、新技術がもたらす利益について調査などの行動を行なった上で、新技術による市場への参戦は時期尚早という経営判断を下します。新技術がもたらす新市場は、既存の顧客、市場からすでに大きな売上をあげている優良企業にとっては、市場規模が小さすぎ、参入のメリットが得られないのですが、まだ規模の小さな新興企業にとっては十分な規模をもった市場であることからも、「破壊的イノベーション」によってもたらされた新市場は、数社の新興企業によってシェアのほとんどを独占されることになるのです。
ところが、この新市場が徐々に成熟して規模も大きくなり、また新技術自体も当初はパフォーマンス的に顧客要求を満たせなかったものが、上位市場でも使えるまでに改良されてくると、立場は逆転しはじめます。新興企業は下位市場から上位市場に進出して、既存企業からシェアを奪っていき、一方、既存の企業は後から新技術を利用した市場に参入しようとしても、そのときにはすでに市場は新興企業に独占された状態です。そのうち、市場そのものの規模が上位と下位で逆転してしまうと、既存の優良企業と新興企業の地位も完全に逆転してしまいます。メインフレームコンピュータがミニコンピュータにシェアを奪われ、さらにはそのミニコンピュータがパソコンにシェアを奪われるといった事態とともに、DEC(DECはコンパックに吸収されてしまった)など一度は市場でのリーダーシップを手に入れた優良企業が見事にその地位を失う結果になったように。
このことをもう一度、ランチェスターの法則の「弱者の戦略」と「強者の戦略」に立ち戻って考えるとき、その弱者/強者という区分が、ビジネスにおいてはまったく安定的なものではないことがわかります。
戦場においてなら戦況は相手との力関係に左右されることが多いでしょうが、ビジネスにおいては戦いの場である市場自体が変化してしまうからです。自社が参入する市場そのものが突然縮小してしまえば、それまでどんなに市場における強者として君臨していた企業でも途端に弱者となってしまいます。
そのため、自社の市場でのポジションだけでなく、市場そのものの現状把握と将来予測、隣接する市場での動向などを、十分考慮した上で、「弱者の戦略」と「強者の戦略」のうち、いずれの戦略を採用すべきか判断する必要があります。
ランチェスターの法則を用いて戦略を策定する際には、市場の動向などを見極めた上で、自社を弱者と捉えるか、強者と捉えるかの判断が非常に重要になります。ただ、ここでも1つ気をつけなくてはならないポイントがあります。
ジャック・ウェルチはGEを去るにあたって、すべての事業に対し、市場でナンバーワン、もしくはナンバーツーであるように求めたのは誤りであったと語ったと言われています。理由は「そのために、経営幹部たちは市場を狭く定義するようになり・・・、GEは機会と成長のチャンスを逃す結果になった」からです。市場セグメントを小さく分割し、勝つために適切なターゲット市場を絞り込んで、集中的に市場を攻略することで、ビジネスの成功確率は非常に高まるでしょう。しかし、常勝するためのその戦略は、時として勝てる可能性がある市場機会をとり逃すことになります。判断の時点では、自社の能力が十分ではないと考えられるために、市場で勝つ確率も低く見込まれたとしても、実際に市場で事業活動を行なうちに自社の能力自体が成長することは少なくありません。そのため、常に市場でのナンバーワン、ナンバーツーの座を目指し、市場を必要以上に狭くセグメント化することは、機会と成長をともに逃すことにもなります。
既存の事業においては常に勝つことが求められますが、企業が継続企業として、変化する環境に適応する能力を維持していくためには、機会と成長を逃さないことも重要なポイントです。ランチェスターの法則を用いる際には、短期的な成功を目指す視点と中長期的な成長の余地を残す視点のバランスも必要だということです。
インターネットの強みは、弱者の戦略の接近戦にも、強者の戦略の遠隔戦にも、いずれにも使えるツールであることでしょう。もちろん、2つの戦略を同時に行なうことはできません(そもそも、それでは戦略の意味がありません)。しかし、インターネットを用いれば、確率戦、遠隔戦からはじめて、一騎打ち、接近戦に持ち込むという流れをシームレスに連続して行なうことも可能です。
たとえば、メールマガジンの発行と連載コラムによって、ユーザーの知識ベースに共通の興味、関心を構築しながら、問合せやご意見を積極的に集めることで、メールのやりとりの個別対応によって、ロイヤルティを高めていくということも可能でしょう。この場合、市場における弱者/強者の関係も無関係とまではいえませんが、それ以上にSEO(検索エンジン最適化)的観点での弱者/強者の関係が大きく影響することと思われます。
企業名や商品名など、企業が独自に保有する言葉は別として、ターゲットとするユーザーの興味、関心をもつキーワードを把握し、検索エンジン対策を行なうことは重要です。効果的なSEOの実践により、インターネット上の強者の地位を確立した上で、メールマガジンや記事コラムで価値ある情報を提供。この時点である程度、ユーザーの囲い込みができたら、接近戦での一騎打ち(個別コミュニケーション)に移る。こうした流れを計画的に実行することで、弱者の戦略と強者の戦略を効果的にバランスよく使うことができます。
ビジネスにおける兵力数を単純に、営業マンの数だとか、広告の数だとか考えると大きな間違いを起こすことになります。
「うちは全国に営業マンがいるから」とか、「ゴールデンタイムにこれだけCMを流しているのだから」などと考え、自社の兵力数を過大評価していると痛い目にあうでしょう。むしろ、この場合の兵力数とは、訪問した客先の数や顧客の心におけるマインド・シェアであるはずです。
自社に対して共感を覚え、好意的に感じてくれている顧客の数こそ、兵力数だと捉えるべきです。そのためには、顧客との効果的なコミュニケーションによって、自社の価値を顧客に知ってもらうことが必要になります。他メディアと比較して、容易に大量の情報をタイムリーに更新でき、またパーソナライズした情報の発信が可能なインターネットは、顧客とのコミュニケーションの施策の中軸に据え、広告やPR、スポンサー活動、イベントなどの他のコミュニケーションを支援し、シナジー効果を生み出すものとして活用することで、効果を発揮するものです。
● ランチェスターの法則とパレートの法則
ビジネスにおいては競合する敵は1社とは限りません。
むしろ、それ以上の数である場合のほうが多いでしょう。そして、勝者より敗者のほうが圧倒的に多いはずです。
いわゆるパレートの法則があてはまるからです。
たとえば、競合する会社が10社あれば、勝ちを得るのは上位2社だったりするでしょう。
ジャック・ウェルチがナンバーワン戦略を示したのもこのためです。勝ちを得るには、セグメントを小さく絞ったターゲットに対して局地戦(ニッチ市場)を行なうことで、ナンバーワンの座を得ることが重要です。ただ、その際、注意すべきはナンバーワンの座を得たあとの成長をあらかじめ計画に入れておくことでしょう。
ニッチ市場を制圧したら、次のニッチ市場に攻め込むことが成長のためには必要です。イノベーションのジレンマで、イノベーションを起こした側の新興企業のように、最初のニッチ市場を足がかりにして徐々に市場を拡大していくには、ボーリングでトップピンに狙い定めるようにあらかじめその後のターゲットも視野に入れておかなくてはなりません。
これをインターネット上で実現するには、まずロイヤルティの高いユーザーのための拠点を用意することです。
ロイヤルティの高いユーザーは売上への貢献以上に、その製品・サービスに対する情熱から伝道師的な役割を果します。また、ロイヤル・ユーザーの期待を知ることは、製品・サービスの真の価値を知ることにもつながり、製品・サービスへの共感〜購買につなげるためのコミュニケーションのためのヒントも得ることができるでしょう。ロイヤルティの高いユーザーのマインド・シェアを制圧することを足がかりにすることで、効果的かつ効率的に他のターゲットへと攻め込むことが可能となります。
● パレートの法則 >>>